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「これで、しばらくお別れなのかな」
雪が降ってもおかしくなさそうな、寒い夜だった。
石畳の地面を、時折立っている街灯が照らしている。
その明かりのすぐ下で立ち止まり、アリエッタはそう言った。
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『Arietta』
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目を閉じたまま、私は辺りの気配を感じ取ろうとした。
チーズの焦げる音。
立ちこめるトマトソースの香り。
この部屋を覆う暖かさは、夏の陽気のせいだけではなかった。 |
『Tortinita』
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学院のコンサートホールは、学生と来賓で溢れかえっていた。
年に二回、春と夏に行われるこの定期演奏会は、
演奏する生徒と聴きに来る生徒、
そしてここの学生の出来を見に来る音楽会の関係者で、
いつもこんな状態だった。 |
『Falsita』
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三年生ともなると、それなりに自分のこともわかってくる。
学生の身分でおこがましいと、きっと私の両親なら言うだろう。
そして、がんばれと。でも現実はそれほど甘くはなく、
事実、私は落ちこぼれだった。
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『Liselsia』
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寒い、雨の日だった。
この街に来てからすでに三日が経とうとしていたが、
相変わらず雨は止まない。それも当然のことで、
だからこそこの街は古くから『雨の街』と呼ばれており、
これから僕が通う音楽学院も、その名を冠していた。
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『Phorni』
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