シャオリーが、ドアを開けて部屋に入った俺を見て、びくっと身体を震わせた。
「終わってないのか?」
三十分ほどはあったはずだ。モニターの前に回り込み、進行具合を確認するが……。
「もうしわけ、ございません……」
「全く進んでないな。今までなにをやってた?」
「使い方が……わからないんです」
シャオリーの側には小さなラップトップPCが置いてある。彼女の物だろうか。それにしても、安物だ。プリンターに直接つなげて、ようやくプリントアウトができるくらいの、子どものオモチャだ。あれで日記を書いているのなら、使い方がわからないのも仕方がないか。
「いつから学校に行ってない?」
「……小さい頃からです」
「そのラップトップのPCは?」
「友人からもらいました」
「日記はそれで書いているのか?」「そうです」
顔を背け、シャオリーは黙り込んだ。
「いつも書いている日記と同じレベルで良い。操作の仕方は教えてやる」
面倒くさかったが、話を聞いているよりはまだましだろう。それに、これから数日は同じようなことを頼むことを前提に考えれば、それほどの手間ではないだろう。
「あ……ありがとうございます」
文書作成ソフトの簡単な使い方を説明していると、シャオリーが俺の顔をまじまじと見つめていた。
「画面を見ろ」
「あ……はい」
「……なんだ?」
「顔に……ついてます」
ジーンの口紅か。手で拭ってはいたが、まだ残っていたのか。
「それが?」
「……いえ」
なにが気になるのか、シャオリーは何度か俺の顔を見ながら、それでも基本的な操作は覚えていった。
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