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 コーヒーを飲みながら、出来あがった文書をベッドの上で読んでいると、シャオリーがシャワーから出てきた。物覚えが悪くなかったのは幸いだったが、スペルに所々間違いがある。スペルチェッカーの使い方まで教えるはめになるとは思わなかった。

「間違いだらけだ。明日からは、スペルチェッカーを使え。フリーのソフトがどこにでも落ちてる」

 シャオリーは、俺が言っている意味がよくわからなかったようだが、かろうじて頷いた。

「さあ、今日の最後の仕事だ」

 出来るだけ酷薄に見えるように、かすかな笑みを浮かべながらシャオリーに告げる。泣き出すかと思ったが、代わりに彼女は、悲しそうな顔で呟いた。

「さきほど済ませてらしたんではないんですか?」
「はあ? そんなことはどうでもいいだろ。お前は俺の言うことを聞いてればいいんだ。それが仕事だ」
「……誰だったんですか?」

 やけにこだわるな。
 二晩一緒に過ごした男に、情でも移ったか? しかし、それは俺の望みではない。
 怒り、恨み、憎悪する対象でなければならない。

「なにか勘違いしてるだろう? 俺がお前を選んだのは」

 髪を掴み、顔を上げさせる。身長差がそれなりにあったから、視線を合わせると、ほとんど真上を向くような形になった。

「お前が俺の大嫌いなカラードだからだ」

 シャオリーは、はっとしたように俺を見つめ、呻くような声をあげた。

「……離して、ください」

 言われた通りに手を離すと、軽く咳き込んで少女は崩れ落ちた。

「さっさと立て。お楽しみはこれからだ」
「……またですか?」
「金が儲かって嬉しいだろ」
「……」
「それとも、嫌か?」

 膝をついたまま、シャオリーは顔を上げた。

「当たり前です」
「なら、お願いしてみろよ。泣いて許しを請えば、俺の気が変わるかもしれないぞ」

 もちろん、彼女が涙ながらに懇願するとは思っていなかった。俺と同じで金が欲しいだけの屑だ。反発の言葉と、怒りに満ちた顔を期待していたが――

「申し訳ございません。もう、許してはいただけないでしょうか? お願いします、ウォルシュ様」

 涙が、演技ではなく溢れ出ていた。

「……金はどうする?」

 彼女が断らないと考えるに足る、一番の理由を口にしたが、シャオリーは首を横に振った。

「私を殺してください」

 シャオリーは繰り返す。

「私はあなたの要求には添えません。だから、私を殺してください」
「それで、借金は帳消しだったか」
「そうです」
「理由はなんだ?」
「お話しできません」

 死にたがっている。もしくは、そう装っているのか。

「わかった。なら、祈れ」

 鞄の中から、自分の銃を取り出す。施設に入る時にチェックはされなかった。
 スライドを引くと、ガチャンという音が鳴り、ハンマーが倒された。いくらシャオリーでも、映画やテレビで聞いたことのある音のはずだ。本来ならここで初弾がチェンバーに装填される。